私は福井の伝統的建築に惚れています。宝物だと思っています。
こうした宝物を、ただ丸写しにするのではなく、新しい時代に合うスタイルに、進化させていくことが私の使命だと感じています。
それを発信する第一歩として、福の家(風と光の家)を「ふくい建築賞」に応募させていただきました。
福井は四季の変化に富んだ暮らしやすい地域です。
年間を通して気温湿度が高く、冬場もまちが凍りつくことはまれ。気候風土に逆らわず、なじむ家を目指しました。
この家は、設計・施工・施主、3つすべてが建築工房英で、事務所と自宅を兼ねています。
福井の良い材料を生かした、木と石と紙と左官の家です。
白壁(しらかべ)で妻入(つまいり)の大きな屋根にあこがれつつ、伝統的な福井の民家のたたずまいも参考にしながら設計しました。
試行錯誤の末、足し算ではなく引き算をすればよいと気づき、このようなH型平面の建物になりました。
H型にすることで建物前後のつながりが生まれました。どの部屋にいても、家族の気配を感じとることができ、外からの視線も入りにくくなりました。
こちらとこちらで、風が舞うことで、前後の庭から爽やかな空気が通ります。
また、裏庭で子どもたちが遊んでいても、前庭で親が見守ることができる構図を思い描いて設計しています。
玄関には畳を敷き、床の間を設けました。
畳を敷くことで、訪ねてこられたお客様に、きちんと座ってご挨拶ができますし、腰を掛けて世間話をすることも出来ます。
床の間は壁(かべ)床(どこ)ですが、四季折々の飾りをしつらえることで、ゆったりとした時間を楽しみつつ、お客様におもてなしの心をお伝えしています。
この家に住み始めてから、長女が「お花を習いたい」と言い出し、玄関に花を活けてくれるようになりました。
毎月、娘たちが活けた花が玄関を彩ってくれます。
ここには桃の節句にはお雛様を、クリスマスにはツリーを。そんな使い方もしています。
家が、暮らしを豊かにしてくれると言う実感が沸いています。
この家は、地元の良い材料と良い職人達との出会いがあって成り立ったものです。
木材については、可能な限り福井の木を使いました。
旬の伐採・葉枯らし乾燥・皮むき・製材・保管、そして原木の買い付けから、志が同じ製材所の親方と一緒に進めてきました。
福井には良い木があり、それを知る良い人達がいます。
つづいて板金についてです。
屋根にはステンレス鋼板(こうばん)の0.4ミリを使いました。
特にお伝えしたいのが、昔ながらの「吊り子」の技法です。
「吊り子」は釘を表に出さない手法で、暑くなったり寒くなったりして温度差が生じると鋼板が伸び縮みして釘が緩んできます。これらの伸縮を緩和し屋根の形状を維持させる特徴があります。先人の知恵と現職人の工夫と志しです。
職人泣かせで大変手間がかかりますが、年を経ても緩みの出ない、丈夫な屋根に仕上げてくれました。
そして、左官について。福の家には茶の間があります。
茶の間の壁は、土壁珪藻土、ワラ須佐(すさ)入りです。ここでは洞窟のような雰囲気を出せないかと挑戦しました。
天井の四つ角を無くし、全て塗りまわしたので、小さな部屋ですが、五人掛りで一気に仕上げました。
床柱には本物の煤竹(すすたけ)を用いました。
竹に縄を巻いた跡が残っており、古民家で使用されてきた歴史を感じさせます。直径4センチの細い煤竹を、壁に美しく収めるのは至難の業でした。
竹の丸みを損なわないように、見せる為、塗り込み方には、随分工夫をしました。
ここは、茶室としてだけではなく、お客様に泊まっていただく部屋としても使っています。
建築工房 英では、手刻みの仕事にこだわりを持っています。
手刻みであれば、梁(はり)や桁(けた)を上中下と層にして重ね、構造美を生むことができます。
さらに、梁の上に影を作ることでより立体的に見えるように工夫しました。
天井板は福井県美浜町の杉の木です。1本の木からほとんど取れました。
製材した順番に板を並べましたなので色の変化も少なく落ち着いた空間になったと思います。
リビングダイニングの天井板は県産の美山町の杉の木です。一本の木からほとんど取ることができました。
また部材一本一本に手鉋(てかんな)をかけることで、表面がミクロン単位で整い、光沢と手触りが格段とよくなります。
例えて言うなら、赤ちゃんの肌が水を弾くような感じです。
山から出た曲がったままの木を梁丸太にしました。曲がりをあえて活かし、曲がった木どうしを組み合わせることで地震や大雪にも耐える強さが得られます。
このように、福の家には良い材料と職人の技の両方が受け継がれているのです。
第8回 ふくい建築賞
【住宅建築部門】
《 最 優 秀 賞 》
福の家 設計者:建築工房 英 HANABUSA 中村 英二
施工者:建築工房 英 HANABUSA
第8回ふくい建築賞 総評 審査委員長 森 俊偉
最優秀賞「福の家」は、まず第一に、大工を本業とし、設計と施工を為した施主の伝統的民家に対する強い愛情と関心度の高さに感心しました。骨太のしっかりした架構や質感、堅実な性能を持った材料選択や納まり等々、質実剛健な木造家屋の良さが創出され、設計と施工の両面で十分に評価できるものでした。
今回の審査では、「福の家」の取り組みに特に関心を持ちました。施主、設計者、施工者の正真正銘のトータルコラボレーションが図られた住宅で、昨今の分業体制下では得難くなった物づくりの熱い成果と魅力を生み出していました。こういった取り組み方が実践出来るのも福井の魅力であり、新たな可能性も感じました。
審査委員 髙嶋 猛
(3)住宅建築部門
①福の家
施主自らが設計・施工した自宅で、伝統的な木造住宅の空間・材料・手法などへの意欲と確かな技術が見られる。設計に3年をかけ、木材などの県産材の調達・施工・完成まで、関わる職人の技術によって住宅は「建て」られることを新たな視点で示している。これらは、住宅を建てる時には「あたりまえ」であったはずだが。
落ち着いた空間の中に、視線の処理、通風に対する開口部の工夫などもしっかり実現されている。ただ、妻入とした正面外観中央部の意匠に疑問が残る。
審査委員 清水 俊貴 住宅建築部門
1.福の家
自身が大工であり施工業者である故に、住宅であると同時にモデルハウスであり、住まいであると同時に「店」でもあること。肯定的に捉えれば社会に対しての公的な提供を、住宅内において表現している「マイパブリック」な要素が強い、より強く意識された住宅といえます。広い敷地、ゆったりとした間取り、丁寧な仕事、人があつまる前庭…などマイパブリックを、福井の人が納得するような素材や、スケール感、仕事の精度などでまとめていることに、設計者がつくる建築とは異なる、福井らしい建築の面白さを感じました。